ミリ波帯の屋内センシング解析
背景と目的
背景
- ミリ波センサーの応用例の一つに監視や健康モニタリングなどを目的とした人体検知がある。
- 人体検知は、センサーで計測される電力遅延プロファイル(PDP:Power Delay Profile)を処理することで行われる。
- 実機により対象物の動きや外乱の影響等からくる動的なPDPの変化や特性を把握することはケース数が膨大となるため困難である。
- そのため、繰り返し計算が容易であるシミュレータを利用することが有効である。
目的
- 屋内環境においてミリ波帯を用いてレイトレース法と物理光学近似(PO:Physical Optics)を組み合わせた解析を行う。
- 人体の動きがPDPに与える影響を評価した上で、本解析手法が人体検知に適用可能かどうかを検証する。
使用する解析ソフト
- ミリ波レーダー解析ツール WaveFarer を用いてPDPを計算する。
解析条件
- 図1に解析モデルを示す。LDKを想定した部屋と家具、人体をモデル化する。表1に材質を示す。
- 人体モデルの動きについては、図1中の①と②の移動と、①での90°回転の3ケースを考慮する。
- センサーを模擬したアンテナは部屋の隅の天井位置に配置する。 指向性アンテナ(利得:12.9dBi、ビーム幅:45°)であり、25°下方向で部屋の内側へと向いている。
- 周波数は24GHz、送信電力は0dBmに設定する。
- 人体モデルからの散乱波をPOによって計算し、それ以外の(正規)反射波や回折波はレイトレース法によって計算する。

オブジェクト | 材質 |
---|---|
天井、床、壁 | コンクリート |
テレビ台、机、椅子、対面式キッチン、食器棚、ドア | 木 |
ガラス | ガラス |
テレビ、冷蔵庫 | 金属 |
人体 | 海水 |
解析結果
人体モデルの有無によるPDPの変化
- 図2に人体モデルあり/なしの場合のPDPを示す。
- 人体モデルを①に設置すると部屋のみの場合より遅延時間35nsec以上でPDPが増加することが分かる。
- アンテナから①にいる人体モデルの頭部までの往復距離は約10.4mであり、電波がこの距離を伝搬する時間は光速より35nsecと計算できる。この時間はPDPが増加する遅延時間(35nsec)と一致する 。

人体モデルの移動によるPDPの変化
- 図3に人体モデルを①/②に配置した場合のPDPを示す。
- 人体モデルが②の場合のPDPは遅延時間55nsec以上で増加することが分かる。 この時間はアンテナと人体間を電波が往復する時間55nsec(アンテナ・人体②間の往復距離 16.5 m から換算)と一致する。

人体モデルの回転によるPDPの変化
- 図4に人体モデルの回転あり/なしの場合のPDPを示す。
- 回転することによるPDPの変化は僅かであり、人体の回転による影響が少ないことが分かる。

まとめ
- 屋内環境のミリ波センサーを模擬したレイトレース法とPOを組み合わせた解析を行った。
- 本解析で得られた電力遅延プロファイル(PDP)から人体位置を概ね推定できるため、本解析手法は人体検知に適用可能であると考えられる。
- ミリ波レーダー解析ツール WaveFarer を用いた。

参考文献
- [1] チン ギルバート シー, 岡村 航, 吉敷 由起子, "屋内でのミリ波帯を用いた物理光学近似による人体検知解析", 信学技報, vol. 119, no. 265, SRW2019-36, pp. 57-58, Nov. 2019.