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解析事例

屋内環境における散乱を考慮したミリ波無線通信の伝搬評価

目的

  • 5Gシステムでの利用が計画されているミリ波帯周波数では、物体の表面粗さが電波伝搬に影響を与え、 正規反射方向以外の散乱を引き起こし、受信電力や偏波に大きな影響を与える可能性がある。
  • ミリ波周波数のチャネル特性を正確に予測するためには、伝搬モデリングにおいて正規反射以外の散乱(Diffuse Scattering、以下単に散乱という)を考慮する必要がある。
  • 屋内環境におけるミリ波周波数帯を用いた散乱の影響を考慮したレイトレース法による電波伝搬シミュレーションを実施し、文献[1]の実測値との比較を行った。


使用する解析ソフト

  • 3次元電波伝搬シミュレータ Wireless InSite を用いて、Degli-Esposti先生の研究(文献[4,5,6])に基づいた散乱の影響を考慮したマルチパス状況や電力遅延プロファイル、伝搬損失を求めた。


解析条件

解析モデル

  • 文献[1]の実測環境をもとに解析条件を設定する。周波数は73.5GHzである。
  • 解析モデルはオフィスであり、壁、柱、窓、パーティション、机およびキャビネットが配置されている。
  • 送信機は部屋の天井高さに配置し、受信機は床上1.5mで7箇所に配置する。
  • 送信機はビーム幅15°、利得20dBiのホーンアンテナでモデル化し、各受信機と正対するように回転する。 受信機は垂直・水平のビーム幅45°の無指向性アンテナでモデル化する。
オフィスミリ波散乱_モデル平面図
図1a:モデル平面図
オフィスミリ波散乱_モデル立体図1
図1b:モデル立体図1
オフィスミリ波散乱_モデル立体図2
図1c:モデル立体図2
オフィスミリ波散乱_モデル立体図3
図1d:モデル立体図3

散乱モデル

  • 散乱モデルには、文献[4,5,6]に記載があるDirectiveモデルを使用する。
  • Directiveモデルでは、散乱波は正規反射方向を中心に放射する。
  • Directiveモデルの散乱パラメータには、散乱係数S、交差偏波率K-xpol、パラメータαがあり、それぞれ以下のようである。
    • 散乱係数S:
      入射電界が散乱する割合を制御する。
      0(散乱なし)から1(すべて散乱)の範囲で設定できる。
    • 交差偏波率K-xpol:
      入射電界の偏波に対して交差偏波になる電力比率を制御する。
      0から0.5の範囲で指定できる。
    • パラメータα:
      前方散乱のローブの形状を制御できる。
      1から10の範囲の整数で指定でき、10が最も狭い形状となる。
オフィスミリ波散乱_Direvtive
図2:Directive散乱モデル


  • 文献[2]によると60GHzでの散乱係数Sの推奨値は0.1~0.5の範囲である。
  • 表1に本事例の使用した各材質の散乱係数Sを示す。
  • 交差偏波率K-xpolとパラメータαはWireless InSiteのデフォルト値である0.4と4を設定する。

表1:各材質の散乱係数S
材質 散乱係数S
コンクリート(床、天井、柱など) 0.4
乾式壁 0.2
金属(梁、キャビネットなど) 0.2
FRPハニカムコア(パーティション) 0.5


解析手法

  • 解析手法には3次元レイトレース法を用いる。
  • 散乱がないパスの計算条件は、最大反射回数3回、最大透過回数1回、最大回折回数1回とする。
  • 散乱があるパスの計算条件は、最大反射回数1回、透過なし、最大回折回数1回とする。


解析の結果

マルチパス状況

  • 図3に受信機7における散乱なし/ありのマルチパス状況(受信電力が上位100位以内)を示す。
  • 受信電力が高い順に赤色、黄色、緑色、青色、紫色で表示されている。
  • 図3aの散乱がないマルチパス状況において、受信電力が高いパスは主にメインビーム内にあり、反射や透過を伴うパスでは受信電力は大幅に低減する。
  • 図3bの散乱があるマルチパス状況において、受信機の後方の壁からの散乱による(正規反射ではない)パスがあり、その受信電力は比較的高い。 散乱なしの場合に見られたパスの受信電力の大幅な低減は見られない。
オフィスミリ波散乱_マルチパス状況_散乱なし
図3a:散乱なしのマルチパス状況(受信電力が上位100位以内)
オフィスミリ波散乱_マルチパス状況_散乱あり
図3b:散乱ありのマルチパス状況(受信電力が上位100位以内)

電力遅延プロファイル

  • 図4に受信機7における電力遅延プロファイルを示す。
  • 図4a、図4bは同偏波(垂直-垂直)での散乱なし/ありの場合の遅延プロファイルであり、 図4c、図4dは交差偏波(垂直-水平)での散乱なし/ありの場合の遅延プロファイルである。
  • 散乱を考慮する方がパスの数が多くなる。交差偏波の方が変化の度合いがより顕著である。
オフィスミリ波散乱_CIR_VV_woDS
図4a:電力遅延プロファイル(同偏波、散乱なし)
オフィスミリ波散乱_CIR_VV_wDS
図4b:電力遅延プロファイル(同偏波、散乱あり)
オフィスミリ波散乱_CIR_VH_woDS
図4c:電力遅延プロファイル(交差偏波、散乱なし)
オフィスミリ波散乱_CIR_VH_wDS
図4d:電力遅延プロファイル(交差偏波、散乱あり)

実測との比較(伝搬損失)

  • 図5に伝搬損失の実測との比較を示す。
  • 図5aは同偏波での比較、図5bは交差偏波での比較である。緑線が実測値、赤線、青線が散乱なし/ありのシミュレーション結果である。
  • シミュレーションで散乱を考慮することで実測値との一致が良くなる。
  • 交差偏波の方が同偏波より散乱による影響が大きい。
オフィスミリ波散乱_伝搬損失_同偏波
図5a:伝搬損失の比較(同偏波)
オフィスミリ波散乱_伝搬損失_交差偏波
図5b:伝搬損失の比較(交差偏波)


まとめ

  • シミュレーションで散乱を考慮することによりマルチパス状況や電力遅延プロファイルは大きく変化する。
  • 交差偏波の方が同偏波より散乱による影響が大きい。
  • 本稿はRemcom社のWebサイト( mmWave Channel Modeling with Diffuse Scattering in an Office Environment )をもとに作成した。

  • 電波伝搬シミュレーションには、3次元電波伝搬シミュレータ Wireless InSite を用いた。
    WI


参考文献

  • [1] G. MacCartney, T.S. Rappaport, S. Sun, and S. Deng, "Indoor Office Wideband Millimeter-Wave Propagation Measurements and Channel Models at 28 and 73 GHz for Ultra-Dense 5G Wireless Networks," IEEE Access, Vol. 3, Dec 7, 2015, pp. 2388 - 2424.
  • [2] Effects of building materials and structures on radiowave propagation above about 100 MHz, Recommendation ITU-R P.2040-1, July 2015.
  • [3] A. Von Hippel, and W. B. Westphal, Tables of Dielectric Materials, Volume V, Final Report, Laboratory for Insulation Research, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA, April 1957.
  • [4] Degli-Esposti, V., F. Fuschini, E.M. Vitucci, and G. Falciasecca, "Measurement and Modeling of Scattering from Buildings", IEEE Transactions on Antennas and Propagation, Vol. 55, No. 1, January 2007, pp. 143-153.
  • [5] Degli-Esposti, V., "A Diffuse Scattering Model for Urban Propagation Prediction", IEEE Transactions on Antennas and Propagation, Vol. 49, No. 7, July 2001, pp. 1111-1113.
  • [6] Degli-Esposti, V., V.-M. Kolmonen, E.M. Vitucci, and P. Vainikainen, "Analysis and Modeling on co- and Cross-Polarized Urban Radio Propagation for Dual-Polarized MIMO Wireless Systems", IEEE Transactions on Antennas and Propagation, Vol. 59, No. 11, November 2011, pp. 4247-4256.
  • [7] J. Pascual-Garcia, et. al., "On the Importance of Diffuse Scattering Model Parameterization in Indoor Wireless Channels at mm-Wave Frequencies," IEEE Access, February 8, 2016, © 2016 IEEE.

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